NewInterView川上乃大「農業をしたければここでどうぞ」

「農業をしたければここでどうぞ」

「農業をしたければここでどうぞ」川上乃大

この現代に生きていると、見えないことが多くなる。モノや情報や欲にまみれて・振り回される。でも、川上さんには見えている。Life is Simple. 必要なものは、いつでもすぐそこにある。農業をやっていてもいなくても、それはまったく変わらない。


【農業とのきっかけ】

菊地:川上さんは、有機農業を始められてどのくらいですか?

 

川上:今年の1月に大阪からここへ引っ越してきまして。この暮らしをはじめて、約9ヶ月になります。

 

菊地:なぜ農業をしようと思ったんでしょう?

 

川上:はい、10数年前に母親が、大病を患ったんですけど、それがきっかけで、食べる物やらに興味を持つようになって。その頃、知り合いに高知県の無農薬の米を紹介されまして、そこの米を買わせて頂くことになったんですけど…そこのお米を食べているうちに(どんなふうにつくられているのか)と興味を持つようになって。それで、その高知県の農家を、よく訪れるようになりました。田植えと稲刈りの時期には、毎年そこへ行って数日滞在して、作業の手伝いをしたりして。5,6年の間、毎年出向くようになりまして。そうこうしているうちに、(自分でもつくってみたい)と思うようになって。

 

菊地:当時は、会社勤めをなさっていたんですか?

 

川上:はい。でも、その仕事を自分が一生続けていくものなのか、疑問を持っていたところもあったんです。勤めをしていた時も、休職しながらワーキングホリデーを利用して、海外で働いたりするとか、自分なりに模索していたような状態だったので、すごく自然に農業を始めることができました。

 

菊地:農業をしたい、と決めてからは、どうしました?

 

川上:まず その高知の農家の方に相談しました…というのは、そういう縁があったので、高知でやりたい、という気持ちがあったんです。でも、その人が言うには、高知県だと流通の面で不利なところがある、四国には大きな消費地がないので、売るのは大変だしお薦めできない、とアドバイスされました。で、兵庫県は有機農業が活発なので、そちらの関係の人に相談してみたらどう?と。僕としては、すぐに農業をやって土をさわりたい、という気持ちがあったんですけど、その高知の方にしたら、気持ちはわかるけど、ちょっと頭を冷やして考えたほうがええんちゃうか、ということで言ってくれたと思います。
それで、兵庫県有機農業研究会の講習のようなものに参加したんですが、僕の横に座っていたのがたまたま、兵有研の当時の理事長の牛尾さんだったんです。知り合いになって、いきさつを説明したら「うちの近くに場所があるから、一回見においで」と言ってくれて。それがきっかけで、とんとん拍子に決まりました。

 

菊地:“自分で作物をつくってみたい”ということで農業を始めた、とのことですが、それなら趣味の範囲でもよかったわけでしょう。その他にも、何か理由があったんですか?

 

川上:ええ。大阪にいた頃、自然食品の店とか、無農薬をやっている農家とか訪れて、買わせてもらったりしているうちに、なんか、自分の中で(何か違う)という感覚があったというか…。そういう自然志向の仕事をしている人らでも、例えば、休憩するときとかに、スーパーで売ってる普通のお茶とか、缶ジュース類とか、100円のスナック菓子とか、そういう類いのものを食して、僕に薦めてくれたりするんですけど。彼らは仕事では、無農薬で・無化学肥料で・手間をかけた・特別な野菜、みたいなものをつくって「これ高価やけど、身体にええもんやし買うて」いうことでやってはるんやけども、その本人は身体にええもんとは言われへんものを買って、食べてる…というのが、僕にとっては矛盾というか、おかしさみたいなもんを感じるところがあって。そういうことが、農業をすることになったきっかけとして、ひとつあります。まあ、そういう“矛盾のない”というか、そういう辻褄の合った暮らしに対する憧れ、みたいなもんは自分の中に元々あったんで。“

 

農園での川上乃大氏

【日々の暮らし】

菊地:なるほど。ライフスタイルについても、関係しているんですね。では、農業を始めるにあたって、不安などはありませんでした?

 

川上:こういう暮らしを始めることになってから、色んな人から言われたんですが。「勝算はあるのか?」「どうやって生計をたてていくつもりや?」いろいろ訊かれるんですけども…僕にしてみると、その質問の意味がわからない、というか。“勝算”と言われたって、勝算も何も…そんなん言われても。

 

菊地:(笑) 別に、勝ち負けとかいう次元の話じゃない、と…川上さんにすれば。

 

川上:その考え自体が、都会的というか町で生きてる人の考え方、というか…サラリーマンのように勤めて、誰かからお金をもらうことで生きているのが当たり前、ということから始まってるわけで。勝ち負けとかじゃなくて、僕はただこの仕事で、自分の好きな野菜とか米とかつくって、それを食べていけば別に(笑)

 

菊地:生きるということが、変わらずそこにあるわけで。そういう暮らしを始められて、農業に関する考えには、何か変化がありましたか?

 

川上:農業は、哲学というか生きるための知恵が、凝縮されている感じですね。牛尾さんをはじめ色んな人に学ぶことで、野菜の加工とか色んなものが身についていって。
毎日野菜を採ってきて、それを調理して食べる。野菜がたくさん出来ると、例えばキュウリやナスなんかは、ぬか漬けなんかにして加工する。こないだの春には、詳しいひとに教えてもらって、大豆で味噌つくったりとか。初夏は、周辺にはお茶の木が植わってるんで、それを摘んでお茶をつくったりとか。その時期その時期にあるものを、教わってつくってます。それがきっかけで人のつながりがひろがってきたり。納豆つくってる人とか養豚の人とか、色んなことを教えてもらったりして、すごい助かっています。毎日充実しているというか、楽しいですね。

 

菊地:生きるために必要なものは、自分のまわりに全部揃っている、と。

 

川上:ですね。大阪の友達の「どうやって食べていくねん?」という心配もあたっていなくて、全然困らないというか。米から味噌から野菜から揃ってて、お店に行く必要も殆どなくて。今月はまだスーパーで200円くらいしか使ってない(笑)。そういう生活していると、逆に、会社に勤めてお金もらう、そのことが(何のためにやってるん?)と、逆に疑問が湧くというか。そんな大きい収入がなくっても、生きられるんで。だから、今の暮らしを始めるにあたって、新しい生活に対する恐怖心というか身構え、みたいなことはなかったですね。

 

川上乃大氏

【農業をはじめて】

菊地:とはいえ、新規就農で作物をうまくつくることは、易しいことではないですよね。そのあたりはどうですか?

 

川上:今年から始めた農業ですけど、米そして野菜も、順調に育てることができています。牛尾さんという大ベテランの人に、指導をして頂いてるんで。他の農家の方にきいたら、最初の何年かは全然できんかった、という話をよう聞くんですけど、僕の場合は不思議なことに…というか、牛尾さんの指導のおかげなんですけど(笑)、仰山いろんなものが出来て…。とはいえ、これはまだ僕の実力というわけではないんで、言われた通りにやってる、というか。僕の段取りが悪かったりしたら、牛尾さんが苗を用意してくれて「これ使ったらええわ」とか。

 

菊地:なるほど。素晴らしい師匠にめぐり会いましたね。どんな方なんでしょう?

 

川上:牛尾さんは、ボランティア精神のある方で(人にしてあげたい)というか、そういう気持ちを持っている人やと思います。PHD協会といって、東南アジア、タイとかミャンマーとかインドネシアとかの若者を日本によんで、指導するための支援をしたりとか、やってはりますね。

 

菊地:川上さんの場合、一年目から、作物の販売もできているわけですね。

 

川上:新規就農の多くの方は、だいたい最初の一年間は研修をしたりとかするみたいなんですけど、僕はしなかったんで。会社やめて、パッと始めたんで。一年目はこんなにたくさん野菜とかつくって、色んなとこで売ったりとかする予定では、なかったんですけど。この一年間は研修のつもりで(牛尾さんのところを手伝って勉強しよう)とか思ってたのが、ラッキーなことに一年目からお客さんもできて、野菜が売れるようになってるんですけど。

 

菊地:お客さんと、どんなお付き合いをなさっていきたいですか?

 

川上:…そうですね、理想は、つくっているところをみてもらうことができれば、いちばんですね。それが無理でも、コミュニケーション…電話・ファックス・メールなんかでいいんで、 取り合っていければいいですね。お客さんからのリクエストがあれば、応えていくようにしていきたいんで。「カボチャがおいしかったんで次はもっと送ってほしい」「来年はトマトをもっとつくってほしい」「ナスがあんまりよくなかった」とか、いいことも悪いことも伝えてもらえたら、改善していけるんで。
出荷のときは、僕のほうからも、メモ描きでメッセージ送ったりとかは、心がけているんですけど。

 

農園での川上乃大氏

【取り組みたいこと】

菊地:作物づくりは、楽しいです?

 

川上:僕の“癖”というか…何かしたい、と思ったときに、売ってるものを買おうと考える前に、(どうしたらそれ自分でつくれるかな)とか、そっちの方向に頭が向いてしまうところがあって。図書館行って調べたりとか、その事について得意な人に、話しを訊きにいったりとか。そういう癖というか、性質なんですかね。実践するのが好き、というか。頭の中で(これでこうなって、きっとこうなる、だから無理やな)とか、そうやって考えることが苦手なところがあるんで。やってみなわからん、というところが自分にはありますね。だから楽しいです。

 

菊地:川上さんが作物をつくるのに、いちばん気を配っているのって、どんなことでしょう?

 

川上:僕の場合は、特に土を意識しています。おいしい野菜づくりは“土づくり”とイコールというか。健康な土をつくることが、おいしい野菜をつくるための基本であって、野菜のおいしさとか収量とか、すべてのことに結びつくと思うんで。土には自然と雑草が生えますけど、土によって生えるものが変わってきますね。健康な良い土の上には、薬草とよばれるような草が生えて、薬品とか使ってる土には、そういうものが生えてこないですね。まず健康で元気な土をつくりたい、という気持ちがあります。

 

菊地:“つくる”ことがお好きな川上さんが、今後つくりたいものはありますか?

 

川上:いずれ、なたね油を手がけたい、と考えています。なたねを栽培して、採って、絞って、まずは自分のところで必要な分をまかなえるくらいになって。もともとこのあたりの人は、なたね油をつくってたらしいので、やれるかもしれないな、と。

 

【就農希望者へのアドバイス】

菊地:これから農業をしよう、と考えている方へ、何かアドバイスやメッセージはありますか?

 

川上:農業をしたい気持ちがあるんやったら、小さくてもできるところからでいいので、まずは実際につくることを、やってみたらいいと思います。それによってわかる事というか、開けてくるものが、きっとあるはずやと思うんで。頭の中で(農業をやってみたいんやけどなぁ)と考えるだけでは、なかなか難しいと思います。
…僕は今、この家を借りているんですけど、独りで住むには大き過ぎる感じです。もしこの辺りで農業をやりたい、いう人がいれば、ここに住んでもらえれば…。農地なら、この辺はタダでもええからどんどんやって欲しい、いうところがたくさんあるんですよ。だから、もし、農業をやりたいというひとがおるんやったら、協力できるかも。
僕はここに来て、牛尾さんから作物の知識や作り方といった、ノウハウなんかをはじめ、手取り足取り教えてもらって、全部お世話になったんで。だからといって、そのお礼に、僕がつくった野菜を牛尾さんに差し上げる、というようなことしても仕方ないし(笑)
僕が恩返しできるとしたら、僕が牛尾さんにしてもらったことを、次は僕が誰かにしてあげることかな、と。

 

川上乃大氏の自宅

3つの質問 −・−・−・−

「もし農業をしていなかったら?」

ちょっと想像がつかないんですが、そのまま会社勤めしているのかもしれないですね。

 

「休日の過ごし方」

時間ができたときは、主に食べるものをつくったりしています。味噌や漬物とか。最近は蜂蜜をつくってみました。といっても、箱を置いておいて、時がきたら収穫するくらいなんですが。

 

「10年後の自分はどうなっていますか」

ここで変わらずにやってると思います。ひとりでやるには今の大きさが限界かな、と思っていますが、これからはいかに効率よく手掛けていくか、いうことも考えてやっていきたい。それと、米や野菜の味…おいしいものをつくっていきたい、と思います。

 

川上乃大氏の笑顔

 

 

 

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