InterViewBackNo井上陽平「愛の戦士」

「愛の戦士」

「愛の戦士」 井上陽平

 井上さんには“若きホープ”という形容がぴったりです。井上さんは、どこまでも・ひたすらまっすぐな方で、その歩みはぶれることがない、まさに言行一致の人。自らを“正義の味方”と名乗る農業の星は、今日も果敢に前進を続けている。…あ、それともうひとつ。農業の星は、ただ今“花嫁募集中”であるらしい。


【就農へ】

菊地:一般に新規就農の方は、会社勤めを経験して、その後 農業を始める、再就職のようなケースが多いと思うんです。ところが井上さんの場合、大学卒業後すぐに農業の道に進んだんですよね。そのあたりのことについて、聞かせて頂けますか。

 

井上:はい。僕は学生時代から農業に興味を持っていて、ある種の憧れのような感情を抱いていたんですね。ですから、有機農業のことや環境問題などについて色々と知っていくにつれて、憧れが使命感になったんです。(せなあかん!俺がやらんと誰がやる?!)という志を持つようになりました。理想を語っているばかりではどうしようもないですし、農業や環境の問題を解決していくためには、まずは自分自身が率先して取り組んでいくべきなんだ、と。強い問題意識を持っている自分でさえ、行動で示すことができないのであれば、他に誰もするわけがない ― そう考えました。…実は、僕は昔から“正義の味方”なんです(笑)

 

菊地:なるほど。正義の味方が立ち上がった、ということですね。でも、いざ農業の世界に飛び込むにあたって、迷いはなかったですか。

 

井上:就職活動をして、企業から内定をいただいてはいたんですけど、結局お断りして、農業を選択しました。やっぱり僕は、自分の理念に基づいて、井上陽平として行動したい気持ちが強かったんですね。個人の想いや考え・主義主張なんかは、企業の中にいたら押し通せないし。会社の理念に従って行動するとなると、僕の考えはきれいごとになってしまうので。

 

菊地:決断なさってからは、どうしました?

 

井上:大学卒業後、まず淡路島に行くことになりました。兵庫県有機農業研究会の紹介なんですが、淡路島の有機農家に住みこみで手伝いをしながら、農業の勉強をする研修生活です。そこで、約半年ほどを過ごしました。有機農家といえども、そこの農家は大農家で、玉葱なんか大量に収穫が行われる、工場さながらといった様相でした。僕の理想とするイメージの中には、有機農業というものは人と人とのつながりで成り立つ、といった感がありましたので、ちょっと想像とは違いましたが、技術的なことを始め、色々と学ぶことの多い期間でしたね。

 

菊地:その後、有機の里と言われるここ・市島町に来られて、今に至るわけですけど、どんなきっかけで移って来られたんです?

 

井上:はい。淡路でそんな暮らしをしている頃、兵庫県有機農業研究会から連絡があったんですね。聞くと「市島の有機農家の橋本さんが、国内はもとより、海外などの会合に出席しなければならない用事が増えて、農作業ができずに困っている。よければ手伝ってあげてくれないか」ということでした。いきなりのオファーで(猫の手でもあるまいし)と一瞬 思いはしましたが(笑)、僕は以前に橋本さんから有機農業の指導を受けたことがあった。ですから、ご本人を知っていたことも関係して、その要請を受けることにしたんです。そんな経緯で市島に居を移し、橋本さんの家に住み込みで、橋本有機農園をサポートすることになりました。

 

菊地:へえ、それはラッキーなご縁でしたね。有機農業のメッカ・市島に移り住んで、有機農業のリーダーの橋本さんから直接学べて…。正義の味方に、運も味方した、というわけですねえ。

 

井上:手伝いを続けているうちに、橋本さんから「このまま市島でやればいいんじゃないか。独立にはパワーがいるし、若いうちに踏み出す勢いも必要だよ」とアドバイスを受けました。僕もそう決めて、それを受け入れることにしたんです。今 住んでいる家も橋本さんが紹介してくれたもので、その他 田舎暮らしのノウハウなんかをいろいろと教えてもらいました。おかげで大した苦労もなく、ここでの暮らしに馴染むことができた…振り返ってみれば“いつの間にか自分の前に道が広がっていた”そんな気がします。確かにラッキーだったのかもしれませんね。

自然を慈しむ

【村に来て…】

菊地:まだお若い井上さんですけど、市島という農村に越して来られて、生活についてはどう感じていますか。

 

井上:村での暮らしは、人と人とのつながりが濃密でいいですね。助け合いのこころが生きているし、そのせいか治安もいいんです。消防団なんかも、村での生活に合った良いシステムだと思います。今年でここに住んで9年になりますが、何十年とここで生きてきて、苦楽を共にしてきた人たちの中に、自分のような者がいきなり入ってきて、うまくやらせてもらっていることは、とても有難いことだと思っていますね。

 

菊地:おかげで農業も順調?

 

井上:始めて間もない頃は、野菜を上手く育てることが、なかなか出来ませんでした。思ったように野菜をつくるどころか、虫食いで穴だらけの野菜をつくることすら難しかった。土づくりをはじめとした技術的なことについて、橋本さんをはじめ人の助けを借りて、少しづつ習得していきました。それに、有機野菜はつくることに加え、売る苦労もあります。幸い、農業を始めた頃の不出来な野菜でも、買ってくれる団体のおかげもあって、今がありますね。最近では、なんとかうまくやっていけるようになりましたが、もちろんそこで満足しているわけではありません。自分で限界をつくってしまうとそこまでですし、それに、次から次へと新しい目標が自然にできてきます。

【初心と今と】

菊地:目標というと、どんなものでしょう。例えば?

 

井上:おいしい野菜が出来はじめると、注文が増えて取引の機会が多くなって、自分のつくった野菜を喜んでくれる方たちが増える。そんな方たちの希望を叶えるため・もっと自分の野菜のファンを増やすため、いつでもおいしい野菜を提供できるようにしたい…。それにはもちろん、自分の技術を向上させていくことも必要だし、投資も必要なのかな、と。…でも、もし大量の野菜をつくって、人と人とのつながりをおろそかにして、ばらまくようなことになっていけば、それは自分の目指してきた道とは違うんじゃないか…。ある規模以上になってしまうと、効率化を追い求めることにもつながるし、それについては、大切にしているエコロジーのマインドとの矛盾を感じるわけです。もともと僕は“捨てる”ということがすごく苦手で、この家にあるものは友達が捨てるようなものをもらってきて、再利用しているんですけど。

 

菊地:もしかして、この炊飯器とか?

 

井上:そう。このポットも(笑)。有機農業を志したのも、ごみを堆肥にして土に戻す、といった循環の考え方が、僕のライフスタイルと合致したことも、要因のひとつです。

 

菊地:そういう井上さんの思想と、実際の仕事の間に、ある種のジレンマみたいなものが出てきてしまうわけですね。

 

井上:もちろん、自然が相手の仕事ですし、自分の能力もまだそこまで到達していませんから、杞憂に過ぎないんですけれど。自分が右と思って進んでいた道が、いつの間にか左に進もうとしている…そんなこともあるもんだなぁ、と。

作業中の井上さん

【つながりあればこそ】

菊地:ブログを拝見していますが、頻繁に更新されていますね。お忙しいと思うんですけど、よく時間がありますね。

 

井上:いえ、時間はありません(笑)。僕の今の悩みは“時間が足りないこと”です。やることが色々とあって、ゆっくりする時間がまったくなくって。独り身なので家事なんかもあるから、なおのことなんですね。ちなみに結婚願望はとてもありますよ(笑) 忙しいわけは、農作業の他に、積極的に外に出て色んな活動に参加し、人間関係を広げて、それを維持していくようにしているから。ブログなんかもできるだけ更新するようにしているので、自然と睡眠時間が削られてくる。でも、ブログへのコメントや、メールなどでお客さんから声が届くと、何よりも嬉しくて、疲れも吹っ飛びますね。それは僕の心の支えですし、モティベーションを維持する原動力になっている。「おいしい」と言ってもらったら(よし!もっとおいしいって言わせたるねん!)と単純に思います(笑)

 

菊地:コミュニケーションを大切にしている井上さんらしいですね。WEBはもとより、井上さんはファーマーズマーケットにも積極的に参加なさって、お客さんとの触れ合いを重視されていますけど。

 

井上:僕の野菜を食べて下さる方には、正直な感想を伝えてほしいですね。僕は“生産者・消費者”とか言う呼び名が、好きではないんです。“お客さん”という言葉も好きじゃなくて。ただ、“野菜を通じて仲良くなれればいい”そう思います。その野菜を通じてお互いが正直でありたいと思うし、野菜を通じて自分を知って欲しい、野菜を通じて人を知りたい、と願っているんです。ですから、僕としてはファーマーズマーケットは野菜を買う場所“朝市”ではなく、イベントとしての“お祭り”であると考えていて、「遊びにきてください」と声をかけるようにしています。やがて人間関係がそんなふうに広がって、みんなが仲良くなっていけば、有機農家への理解も進み、環境問題の解決の糸口にもなるんじゃないでしょうか。

 

菊地:ネットワークを広げていくことは、井上さんの理念をかたちにするために、不可欠ですからね。

 

井上:政府の農業政策は、家族型の有機農家なんかに対して助けになっていないので、草の根的に進めていく他、ないと思います。これは、断じて自己満足で終わってはならないと思うし、そう考えると、僕はじっとしていることができませんね。

 

菊地:正義の味方が、もっと増えて欲しいところですね。では、これから農業をしよう、という人たちにメッセージはありますか。

 

井上:もし、僕が何かを言えるとしたら“仲間をいっぱいつくること”。まずは、それが大切だと伝えたい。友達や商売仲間、地域の飲み仲間など、とにかく多くの人たちと接点をつくって、つながりを深めていくこと。思えば僕が、まがりなりにも農業を9年間やってこれたのも、仲間がいたおかげ。自分のまわりの人間が自分を強くしてくれている、そう感じます。

井上さんのブログ

【農業イコール…】

菊地:日々充実の井上さんですけど、その基となっている農業って、井上さんにとってどんなものでしょう?

 

井上:僕が思うに、農業に最も大切なことは“自然を慈しむこと”それと“食べてくれる人を想うこと”ですね。ひとことで表すと“愛”これに尽きるんじゃないでしょうか。“愛”だなんてちょっと照れますが。そんな僕にとって、農業とは「自分が自分らしく生きること」「自分そのもの」「お金を稼ぐ手段」「仲間づくりの場」「将来も残していきたいもの」「誇れるもの」であり、“自分にとってだけでなく、人にとっても必要なこと”そう信じたい。…それは愛も同じことですね。正義の味方は“愛の戦士”なんです(笑)

 

菊地:愛は地球を救う(笑)ありがとうございました。

3つの質問 ?・?・?・?

「もし農業をしていなかったら?」

う~ん、普通にサラリーマンとか?面白くない答えですね(笑)。…そうやな、環境問題をアカデミックに取り組むような仕事、そういう方面の研究者・学者なんか、いいですね。

 

「休日の過ごし方」

忙しい中でも、仲間と付き合う時間は大切にしてますね。飲み会とか、食事に行ったりとか。それに、ゴスペルを歌ったりとか丹波焼を制作したりとか、趣味にいそしんだり。まあ、月並みですよ。

 

「10年後の自分はどうなっていますか」

楽しく農業をしていいたいですね。それに、結婚して子供がいて家を建てて…家庭も持っていたいしね。今はとにかく仕事に振り回されっぱなし、というところがあるので、安らぎの場所も欲しいですね。

 

 

 

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