


「みんなが遊びに来る農家」 古谷洋瓶・暁子夫妻
“微笑ましい”などといったら、失礼に聞こえるかもしれませんが、あまりにも微笑ましい古谷ご一家。ご夫妻から発せられる、ほんわかとした温かい雰囲気。見渡すと、青く高い空のもと、田畑と濃い緑が広がり、雲は輝き空気は澄んで、穏やかな風が頬をなでる。木々のにおい、鳥のさえずり。陽あたりの良い丘にたつ、木造の愛くるしい家。ヨチヨチでニコニコの赤ちゃん。ここは、まるで絵本に登場する世界。奥丹波ブルーベリー農場には、非日常的なやすらぎが満ちている。
【「農業をやる!」】
菊地:古谷さんご夫妻は、見るからにお若いフレッシュカップルです。そんなおふたりが、有機農業を始めることになった経緯など、教えていただけますか。当時、どんなお仕事をしていたのか・すでにご結婚なさっていたのか、そのあたりからお願いします。
洋瓶:僕は京都の自然が豊かなところで生まれ育ったんですが、卒業後 大阪の泉南に移り住んで大型車のドライバーになったけれど、そこでの環境が自分に合わなかったんです。緑がなくて、空気は悪い、海はゴミだらけ、職場は油の匂いで充満している、そんなところでしたね。生活は不規則で体調もよくない。すると、おのずと環境や食べ物などについての意識が、高まるようになってきたんです。そんな頃、当時は彼女だった家内から、一冊の本を渡されました。“ニンジンから宇宙へ”という本で、有機農家を営んでいる方が書かれたものです。この本と出会って(農業をしたい!)と、そう思うように、なってしまいましたね…。
暁子:私は当時、京都の雑貨屋に勤めていたんですけど。そこの社長が社員教育のため、その本を社員に渡していたんです。身土不二や人間の想い、といったことに関して書かれたものなんですが。彼が悩んでいた頃、これ読んでみる?という感じでその本を渡したんです。ただそれだけのつもりだったのに「俺、農業やる!」とかなってしまって、「オイオイ、チョット何言ってるん?」ってことになって(笑)…彼が農業をやるということになって、私の家からの反対はすごくありましたね。親だけじゃなく親族一同(笑)でも、彼がつっ走るタイプなんで、「農業する」と言い出してから、1年後にはもうここに来ていました。
洋瓶:性格的に、思い込んだら突き進んでしまう、というところがあるんで。極端でした(笑)
暁子:他は見えてなかったもんな(笑)その本読むまでインスタント麺とか食べまくってたのに一切やめて、調味料とかも全部有機のものとかに変えて、外食もせえへん、とかになって(笑)
洋瓶:よく就農したいけれど思い切れない、という話を実際に耳にするんですが、自分はそうではなかったです。不安もなく(できる!)と思って。ほんとに何も考えてなかった、というか。でも農業を始めて現実を知ってから(甘かったな)とは思いましたけどね。
暁子:土すら触ったことなかったんですよ、小学校のときにチューリップ植えたことある、芋掘りした、くらいの話で。で、とりあえず“土が触れるかどうか”確かめに、休みの日を利用して、農業体験に行ったりしたんです。草引きなんかしただけで「俺、農業できるわ!」とか言って(笑) でも、農業法人なんかに行って様子をみたら、あちこちを巡っているというか、転々としている人か多いんですよ。
洋瓶:農業をしたいんだけれど、知れば知るほど踏み込めない、みたいなね。
暁子:農業をやるなら、最初から思い切って独立してやったほうがいいよ、みたいなアドバイスを受けて「もう、やる!!!」と。そこで有機農業や田舎暮らしに関していろいろと調べていたら、市島のNPO法人 丹波太郎さんのことを知ったんです。新規就農者の新規事業もあるし、助成金もあるし、ということで、丹波太郎さんにお願いしたんです。それが秋頃かな。…この家が11月頃に見つかって、うちの親は「引っ越す前に結婚せなあかん」ということで12月に日取り決めて、彼は1月に仕事やめて2月からここで研修受け始めて、私も会社に報告したら会社もびっくりして「お前の彼氏、絶対なんかヘンな宗教ハマッてるで」「絶対ダマされてるで」とか言われたり(笑) で3月に結婚して。…それから始まった、というか。
菊地:結婚前提の彼氏の就農に、反対することはありませんでした?
暁子:それは、なかったです。私の母の実家が農家で、親戚に農家が多くて…代々 京野菜をやってる農家なんですけど。母は農業がイヤで、サラリーマンの父と結婚したんですね。そんなこともあって、私としては農家が大変なことを知っているので、ある程度の不安はもちろんあったけれど。でも逆に“やり方”によっては、何とかうまくやっていけるんじゃないか、という思いはありました。私もけっこう楽観主義なので。
洋瓶:就農はふたりの性格によるところが大きかったですね。
暁子:無謀すぎるよね(笑)農業がどんなものかよくわかっていたら、始められていなかったです。
洋瓶:最初からわかっていたら、踏み込めていなかったと思いますね。
暁子:若いんやからやりたいことはやっとき、農業を4、5年やってダメだったとしてもあんたら30歳なのでやり直しはきくし、とりあえずやってみ…みたいなアドバイスもあったので。
洋瓶:最初の1年目は大変でしたね。僕らはそれまで“商売”というものを、したことがなかったんです。農業も商売なのに、そういう感覚がなかったんで…。(作物ができたら生活ができるんや)くらいにしか考えていなかったです。ところが現実は“いいものをつくって売る”というかたちができていないと、生業として成り立たないですから。そんなこともあって、1年目はしんどかったですね。
【ブルーベリーとの出会い】
菊地:なるほど。その時点では、古谷さんのところの主な産物であるブルーベリーは、まだつくっていなかったんですか?
洋瓶:当時はブルーベリーはつくっていなくて、“野菜をしよう”というのがありました。研修を受けながら、空いた時間に自分の畑にとりかかって。すべてが初めてのことなので、わからないことばかりでしたけど、ますは17アールくらいを借りて、野菜をつくりはじめました。大変だったのは、まず土づくりですね。研修先で触れた土は、畑の土として何十年も耕されていて“野菜を育てるための土”になっていたんですけど、僕たちが最初に借りた土地は、もともと水田として使われていたところだったんです。野菜の土と土質が全然違いますので、まずそのあたりのことに、取り組まないといけませんでした。野菜をつくるための土は、けっこうさらさらとした土ですが、水田の土はこう、ブロック状というか粘土っぽいものなので。
暁子:よくケンカしたな(笑)私、実家が農家の関係で“野菜をつくる土”というものを知っていたんですけど、私たちが借りたところは“長靴はいたら長靴が脱げるような土”やから。「何なん!コレ!こんなところで野菜できんの?いつできんの?どうなん?!」「ゴチャゴチャ言うな!」とか(笑)畑 出たらケンカやな。
菊地:今となれば、笑って聞けるお話ですね(笑)。それから、どうなりました?
洋瓶:研修が終わって、助成金もなくなる2年目からは(野菜だけやっていても、これから食べていけないんじゃないか)と思い始めました。収穫ごとに植え替えないといけない野菜は、人手かかかることもあります。そこで彼女が“ブルーベリー”ということを言い出して。じゃあ一度それを植えてみよう、ということになりまして、とりあえず、家の裏に植えたんです。その頃にはある程度、村の人たちに自分たちのことを知ってもらえていたので、もっと農地を貸してくれることになった。その土地がたまたまブルーベリーに合う土だったこともあって、ブルーベリーを植え付けることにしたんです。永年作物のブルーベリーと野菜を組み合わせたら、なんとかやっていけるんじゃないかな、ということを思いまして。
菊地:発想を変えたわけだ。内助の功ですね。
洋瓶:当時 僕はブルーベリーのことを殆ど知らなくて、国産の生のブルーベリーを食べたこともなかったんですが、彼女はよく知っていて、おいしいものだということがわかっていたんですね。それに丹波ではブルーベリーをやっている農家が殆どなかったんです。野菜づくりはこのあたりは盛んなので、自分達はちょっと違うことをやらないと、他と差別化できないな、とも感じていました。結果的にうまくいって、収穫もできて。それを販売することもできましたし、その年はとても充実した1年になりました。最終的にはモノがなくなって、お客さんの注文をおことわりするくらいで、ありがたかったです。今年・来年と、木が大きくなっていくので、それに伴って収穫量も増えていきますので、しっかりとした販売方法も考えていかないと、と思っています。
暁子:ブルーベリーの植え付けをしたときはしんどかったな。先が見えなくって「これいつ終わるの?」みたいな。吹雪の中でも黙々とやって。やっているうちに(何してるんやろ)とか思い始めたり。途中、二人ともおかしくなってたな(笑)めっちゃしょーもないギャグで大笑いしたり。それ以外は、しんどいとか苦労したとか、あんまりないです。
菊地:ブルーベリーについて、あまり馴染みのない人も多いと思うんです。少しご解説、願えますか?
洋瓶:ブルーベリーは他の果樹と違って、酸性土壌を好みます。普通は中性を好むんですが。それに小果樹なので“ひげ根”といって細い根なので、土が柔らかくないと根が張りません。有機質がある程度ないといけないし、土中の空気も必要といった、気難しい性質を持っているので、成育にはそのあたりを特に気をつけています。ちなみに、ブルーベリーは収穫が難しいんですね。同じ木の中でも、熟している実と熟していない実があるので、その見極めというのが必要になってきます。見た目と触った感触で熟しているものだけを収穫してやる、そのために手間がかかるんですね。
暁子:100パーセントすべて甘いものだけを採ろうとしても、それは不可能なので、粒々を数個同時に口の中に入れて、甘さと酸っぱさをミックスさせて味わうのがおいしいんですね。ブルーベリーは酸っぱいから苦手、というイメージを持っている方が多いと思うんですが、それを変えたいですね。甘くておいしいブルーベリーを食べさせてあげたい、って思いますね。酸っぱいっていうイメージを持っている人が、ここに来てブルーベリーを食べて目からウロコ、っていう人もいてはったから、こちらとしては、すごい気持ちよかったですね(笑)「ほら!おいしいやろ!?」みたいな。生計を立てるために売りたい、という気持ちもあるんですけど、それよりも、甘いブルーベリーを知りはらへんのは損やわ、と思うから、食べてもらいたい、って思いますね。子供なんかが来たとき、ブルーベリーをすすめても嫌がる子がいたりするんですけど、一度食べさせたら喜んで、後はもうずっと勝手に食べてるのを見たりすると、嬉しいですよね。
洋瓶:もちろん薬は何もかかってないから、そのまますぐ口に入れられるし。
暁子:皮ごと食べれられるから、おなかの調子もすごくよくなるし。疲れにくくなるし。目にもいい働きがあるし。身体にいいんですよね。
洋瓶:紫色の色素にポリフェノールが含まれていて、抗酸化作用があるんです。老化の防止にも役立ちます。
暁子:新陳代謝にもいいから、女性なんかは肌にもいいし。
洋瓶:おいしいし、機能面でもすぐれたものを持っている、とても魅力的な果物なんです。
暁子:お菓子にも使えるし、ジャムとかにもできるし、料理にも使えるし、冷凍保存もできるし。
菊地:なるほど。それにしても、ブルーベリーの話になると、お二人ともエンドレスですね(笑)
暁子:いつもそうやな(笑)ずっとこのまま話ししてますから。ふたりとも完全にブルーベリー狂(笑)
洋瓶:将来的にはジャムみたいな加工品にも挑戦していきたいと思っています。
暁子:こういうのがしたい、っていうのがいっぱいあるし、やっぱり、ブルーベリーの魅力にはまってるから、仕事がしんどいとか思うことが、あんまりないな。収穫が終わって年末なんかになると(来年どうなるんやろ)ってめっちゃワクワクするんです。そういうのは会社に勤めてるときには、ないことですね。でも言葉変えたら“不安定”とも言えるんですけど(笑)でも、すーっごく楽しみなんですよ、夏が。
洋瓶:不安な部分もあるけど、そういう楽しみみたいなんがあるよな。
暁子:新芽が出てきたり、花が咲いたりすると(あ!育ってきた!)とか思ってドキドキするんですよ。(…どうなるんやろ)っていう。
【おいしく食べて】
菊地:ブルーベリーをはじめとした作物づくりのために、古谷さんが大切にしていることは何ですか?
暁子:安全なものを食べてもらいたいっていうのはもちろんですけれど…“新鮮でおいしいものを食べてもらいたい”っていうのが、まずあるんです。
洋瓶:本当の作物の味がするものを食べてほしい、というのが強くあって。もちろん“安全・安心”は重要なことですが。
暁子:…やっぱりおいしくないと、ね。なんせ二人とも食べることが好きなんで。だからお客さまにお届けする野菜の箱の中に、レシピなんかを入れたりとかしています。それと、今 畑はこんなふうになってます、とお知らせするような写真とお手紙入れたり。どんなところでどんなふうにつくっているのかわかってもらって、おいしく食べてほしい…。そうやって、ありのままを知ってもらって、丹波のよさをわかってほしいですね。
洋瓶:そういったコミュニケーションを通じて、僕らのやっていることをわかってもらえた上で、お客さんとのつながりを築いて、深めていきたいですね。
暁子:食べ方ひとつで変わってしまうから…例えば、人参は皮をむかないでタワシでこする程度で、ちょっと固めで食べたほうがおいしいとか、そういうのを伝えるのは、どんどんやっていきたいですね。「おいしい」って言ってもらえるの、いちばん嬉しいもんな。
洋瓶:せやな。
【夢】
菊地:最後に、奥丹波ブルーベリー農場の夢について、教えて下さい。
洋瓶:僕らがやってることを、実際に見に来て頂いて、理解して下さるお客さんをどんどん増やしていくこと、ですね。
暁子:そうやね、みんなが遊びに来てくれはる農家がええね。
洋瓶:これはごく個人的なことですが、家族を増やしたい、という願いがあります。ちなみに昨年子供が生まれたんですが、離乳食の材料を自分のところで全部まかなえる、というのは、この仕事をやっていて感じるすごい喜びですね。
菊地:新しいご家族の誕生をお祈りしています。また遊びに来ますのでよろしく。
3つの質問 ?・?・?・?
「もし農業をしていなかったら?」
それは、考えられないですね。僕の仕事は農業やな、と感じてしまっているんで。もう、考えられないです。
「休日の過ごし方」
休日ですか…意識して取ることはなくって、農作業してない日を休日というなら、そうですね…ファーマーズマーケットなどのイベントに参加したりとか。あとは子供がまだ小さいので世話をしたりとか、ですね。
「10年後の自分はどうなっていますか」
ブルーベリーの面積をもっと増やして、都市部のひとたちをもっと招ける環境をつくっていたいですね。ただ、今のやり方だとこれ以上増やすと手が足りないので、人を増やすことなども考えないといけない。色々とクリアしないといけない問題がありますね。























