


「前へ出る農家」 岡野圭佑
ご覧のように一見、かなりのコワモテに見える岡野さん。でも実際は全然違って、話をするとそのギャップに驚かされる人当たり。それもまた、岡野さんの野菜のファンを増やしている原因であるに違いない。そして岡野さんには、人間の身体の中に通っている血…ほとばしる熱いモノを感じさせる何かがあって、それもまた原因のひとつだと思うのです。
【イタリアの野菜】
菊地:岡野さんは、一般的な野菜の他に、珍しい種類の野菜も、いろいろと手がけておられますね。
岡野:現在は一年を通して36種類以上のイタリア野菜をやってます。パーラローザ、ビッシャロッサ、プンタレッタ、カーボロネロ…少し前までは聞いたことも見たこともない野菜。種の原産地名とか地域の気候なんかを調べたうえで、僕らなりに試行錯誤しながらつくってるんですね。
菊地:僕の場合、岡野さんに薦めてもらって、初めて食べた野菜って多いんですよ。
岡野:確かに殆どの人にとっては、僕らのつくるイタリア野菜は生まれて初めて食べる、いう人が大半やけど、でも食事は明るくて楽しい方がいいもんね。なんぼ高級食材を使っても、暗い食事ならおいしいはずがないやんか。お客さんの食事のときに、話題になる野菜なんで、つくっていて僕らも嬉しいもんね。
菊地:日本野菜ではないタネなんかを、どうやって手に入れているんですか?安全性なんかについてはいかがですか?
岡野:種は出来る限り、原種に近い種を海外から購入してます。現在、日本の種の殆どは、種自体を薬品にズブ漬けして消毒してます。だから、日本の種の殆どがピンクとか緑色とか黄色とか、色んな色に染まってるんですね。見たことあるでしょ?種に触ると手の平に色がついてしまったり。こんなの、普通じゃないでしょう。だから僕らは、ごく当たり前に、出来る限り自家採取を推し進めてます。今では90%以上、イタリア野菜も含めて自家採取してるんです。
【農業との出会いと夢】
菊地:岡野さんは、以前は会社勤めをなさっていたんですよね。
岡野:ええ、もともと商社に勤めていたこともあってね、その反動かもしれませんけど“ものをつくる”という、生産する喜び、みたいなんが僕の中にあって、それをいつも感じて、仕事しています。
菊地:商社時代は、海外での生活も?
岡野:仕事柄いろんなところに駐在していましたけれど、野菜に関して言えば、特に印象に残っているのがアラブ人の感覚ですね。不思議なことに、僕が個人的にも親しかったハイクラスのアラブ人ほど、日本人よりもたくさんの緑黄色野菜を食べる、という習慣がありました。なんでそんなに食べるの?と聞いてみても、あまり答えず、僕にも食べろ食べろと押し付けてくる。その訳というのが、アラブ人にとって緑の新鮮な野菜を豊富に食べていること自体が、彼らのステータスらしいんですね。「俺はこんな砂漠の真ん中の家でも、こんなものが食べられるやで」というプライドみたいなもので、健康やおいしさのためだけでない、ということを知りました。変な話ですけどね。
菊地:農業との出会いについて、教えて下さい。
岡野:女房の実家が、既に30年以上も有機農業をやっていまして、僕は自分の心と体の癒しのために、軽いノリでそれを手伝うことになりました。当初は農業自体を小ばかにしていたこともありましたけど、やっていくうちに農薬による汚染…農家の人らにひざ痛やひじ痛がやたら多いこと、それから癌の発生率が高いことなど、そのもたらす悲劇をはっきり認識するようになって…勤めを退職して取り組み始めました。それと、僕の女房は極度のアトピーですが、今はごく普通の生活が出来るくらいにおさまっています。ひどい時は夜遅く、あまりの痒さに寝られないほどでした。僕は、この病気は食による原因がある、と自分なりに確信したんですね。そんなことも、有機農業に本格的に目覚めることにつながりました。
菊地:僕の子供もアトピーの気があったんです。今では治りましたが、あの痒がっている様子というのは、見ていて本当に辛いものがありますね。岡野さんの場合、仕事の内容と、岡野さん個人としての願いが、一致したわけで、やりがいとしては、これ以上ないですね。
岡野:僕の夢というのは、もっと広範囲に色んな人びとと出会い、自分たちのつくる“元気の出る野菜”を広めたい。もちろん、たくさんお金儲けしたいけれど、それよりも色々な皮膚の疾患で苦しんでいる小さな子供たちを、食の面でサポートするような社会システムをつくりたいです。もう有機野菜を啓蒙する時期は終わり、今はもっと前に出て社会弱者と言われる低所得者層の子供たち―その中でもアトピーなどの皮膚疾患で毎日苦しんでいる彼らを、一日でも早く援助するシステムを、農家サイドからつくりたいんです。もちろん、農家だけでできるわけでもなく、国・地方自治体・一般の人びと、みんなの協力でできることですけれどね。
【これ以外にない】
菊地:なるほど。それを実現するために、収量をどんどん増やしてほしいですね。でも、有機だと大変な部分もたくさんあるでしょう。
岡野:やっぱり、まず厄介なのは“虫”の害です。虫が発生するタイミングを、うまく見計らって虫を取り除く。虫は、大体3回やっつけたらOKです、僕の経験上。発生する、で、取り除く。次また発生して取り除いて、またその次。3回それをやって、ようやく出て来ないようになる。彼らも、3回やればあきらめるみたいです。
菊地:(笑)3回というのは、虫の気持ちになれば、わかる気がする回数ですね。何かきちんとした理由があるんでしょうけど。でも、そういう自然のおもしろさってありますよね。都市から田舎へ移って来られて、いろんな発見があったんじゃないですか。
岡野:おもしろいですよ。例えば、カラスの巣作りの按配をみて、その年の天気がわかったりするんです。カラスが地上から高いところに巣をつくると、その年は雨が多かったり、冷夏になったりね。そんな不思議さとか、説明できないけど納得できることとか、自然が教えてくれることとか、いっぱいありますよ。こんな経験があるんです。ある時、僕は両手を土の中に突っ込んだ…すると、体中のストレスが、腕を伝っていって、一瞬のうちスーッとに抜けていくのを感じたんです。自然が、僕の中の悪いものを、一瞬にして吸い取ってくれた…強烈な体験でした。農業を始めた直後のことなんですけどね。この時 僕は(農業をやりたい!これ以外にない。土そして自然、それ以外に何があるんや)と思いました。
菊地:岡野さんに、農業の神様が降りてきた(笑)
岡野:僕にとって農業というのは、もちろん、生活の糧ではあるんですが、すごい高い山に登る、みたいなところもあるんです。歩けば歩くほど頂上に近づくように、農業もやればやるほど返してくれるものがあります。
【おいしいものの話】
菊地:“生活の糧”の部分でお聞きしますけれど、最近の市場では有機野菜の認知も広がってきてますね。
岡野:まだまだですね。有機農家の殆どが、経済的には苦しい状況にある、というのが実際ですから。有機農業というのは、有機農家のこだわりと頑固さで持っている、と思います。僕のところでは、週3回 朝市をやって販売しています。板宿・六甲・芦屋・北野で、不特定のお客さんを対象に、対面販売してます。今後はこれをステップにして、お客様ごとに契約をとって、直接野菜を届ける、という方向に持っていこう、と思ってるんですけど。地域性を考えれば、その方が向いていると思うし、時間のない自分にとって効率がいいし。それに、そうすることによって、お客さんとの繋がりが深まるでしょ。いろいろと生の意見を聞けて、じっくり付き合っていくことができる。いい野菜をつくることにも、いろいろとプラスになることが多いと思います。
菊地:そのほうが、お客さんにとってもたくさんのメリットがありますしね。農家さんと直接付き合うと、今まで当たり前と思っていたことが、そうでなくなることもありますから。いい意味でのショック、というか。
岡野:僕は農家のイメージを変えたい、と思ってます。“前に出て行く農家”とでも言うのかな。何にも考えずにただつくって、農協にそのまま持っていって…いうのは全然やりたくないんですわ。実際に食べてくれる人と、直接会話できるようなかたちをつくっていくことが僕の理想でね、もしおいしければ「おいしかった」ということを聞きたいし、おいしなかったらおいしなかったで「おいしくなかった」いうことを聞いて…そんなやり取りを交わしたうえで、しっかり意見を聞いて活かしながら、農業をやっていきたいと思ってます。
菊地:お客さんに対して、特に伝えたいことってありますか?
岡野:そうですね、「おいしいものを食べてほしい」ですね。“本当の味”のものを知って下さい、と。僕は、自分のつくった野菜を食べてくれる人に対して、本当においしいもの・本物を教えてあげることができれば、と思うんですわ。でも、こんなこともありました…僕がつくったものを「おいしい」と喜んでくれる。それは嬉しい。だけど、作物が不出来な時で、僕としたらパーフェクトとはいかなかった。そういう時も、お客さんは「おいしい!」と心から言って下さる。そんなとき僕は、ほんまに悔しくなるんです。(これは、もっとおいしくできるんや。もっとおいしいものを届けて、ほんまもんのおいしさを教えてあげたい!)
【有機の実際】
菊地:なるほどね。お客さんがそれまで食べていたものより、おいしいものを食べたとしたら、農業に対する興味だって持ってくれるかもしれませんね。(何でこんなに違うんやろ)とか。
岡野:ええ、有機農業への理解が深まるかもしれない。僕らはJAS有機認定を取っているけど、これにもいろいろと問題があります。そもそも、JAS有機であっても「これらは使ってもいいですよ」いう薬のリストがあるんです。で、僕は最初、それが何のことやらわからなかった。女房と相談して、農協行って、そのリストに乗っている“乳化剤”いうのを買って試してみた。その乳化剤いうのは、物凄い匂いがするんです。で、これを水で薄めて、虫にかける。そしたら虫はイチコロです。要するにこれって農薬みたいなもんですよね。リストに載っているそういう薬品20~30種は使っても“JAS有機認定”として認められるわけです。これはある会議の席で、同じく疑問を持っている農家の人がJAS有機認定機関の担当者に質問した時、彼らの説明によると“対諸外国の有機法に合わせるために承認している”とのことでした。つまり、他国がこれらの薬品を使用している有機農産物を日本に輸出する際、規制の対象にならないようにとの、他国への配慮であると。この論議は、いかにも日本の独自性がなく、残念です。でも僕らは一切使っていません。だから“薬品など一切使っていない有機野菜”は“完全有機”とでもして、扱いを別にすべきと思います。
菊地:一般の人たちにすれば、有機認証の印があるものは、岡野さんの言われる完全有機のイメージですね。
岡野:2年前に、新規就農者を募集する催しで、僕は講演することになったんやけど、僕はその場でも日本の有機農業の矛盾を批判してしまった。更に参加者の中に、後日日当をもらえるから、という理由で参加した不真面目な農家もいたとのことで、その後、講演の後日談を掲載する時、「あんな人たちと同席するのはプライドが許さん」と書いたら、それ以降はその催しの出席依頼がなくなりました。日本の農家も変わらなきゃ、と思います。
菊地:いずれにしても、一般のたくさんの人たちが、農業に関することを、もっと知る必要がありますね。その前に、興味を持っている人があまりに少な過ぎる、そんな気がしますけれど。
岡野:消費者が今のままやと、行政や農業を仕切る人たちも、変わっていかへんでしょうね。農水省は、有機農業なんか別に増えんでもいい、と思えるような無策です。補助もなくて、ただ食の安全性を高めようとするスローガンを唱えているだけです。有機農家は全農家の約1%。去年の統計では、さらに減少しいている、という実態があります。この間、大きな販売所に行ってみました。時間は夕刻の閉店間際です。すごい量の野菜が、殆ど既になくなっていました。でも有機野菜のコーナーだけ、まだ野菜は残っている。価格も慣行野菜と殆ど変わらないのに。どうして売れ残っているのか?それが僕の率直な疑問です。いちばんに売り切れなきゃおかしい、と思う。僕は、一般の消費者が農家をもっとサポートして欲しい、と思います。農家宣伝部さん、もっとがんばって下さい(笑)。
菊地:恐れ入ります(笑)。農業に興味を持つ人が増えれば、有機野菜が売れて、有機農家が栄えていくかもしれませんね。
岡野:有機野菜がもっと売れれば、若い有機農家が生活のためにアルバイトしなくてもいいし、年収が上がっていけば、有機農業への新規就農者も増えていくでしょう。…中国のギョウザ事件があれば、危険ということで海外製の加工食品は食べない。でも、日本製は本当に大丈夫なの?と思います。使用されている野菜の安全性に、もっと根本の問題がある。どうして中国の農薬は危なくて日本は大丈夫なの?…僕らは子供たちを守る義務があるんですから。
菊地:消費者も、農業に関する目を養うことが必要ですし、農家さんとしても、岡野さんの言う“前に出て行く農家”が増えなきゃいけませんね。
岡野:それには、消費者をだますような農家であってはいけないんですよ。今回のお話は“農家の人たちを紹介する”ということで受けましたが、僕としては何よりもまず「日本の野菜は安全かどうか。どのくらい安全なのか。鮮度はどうなのか。どんな手間を使ってつくられているのか」そういうことが、世間にもっと広まってほしい。そう思っています。
3つの質問 ?・?・?・?
「もし農業をしていなかったら?」
死んでたんじゃないか、と思います。農業を選択した当時の僕は、(何かをやってやる)とか考えられるような状況じゃなかったというか、余裕がなかったんですね。そんな状態の時、農業と出会ったんです。
「休日の過ごし方」
100%子供と一緒。
「10年後の自分はどうなっていますか」
“日本一”ですね。何をもってかは、わかりませんけれど。生産量で日本一、なんてことはないですが、何か独自性のあることで、僕はそれを目指します。…そもそも、最近は“日本一になろう!”というヤツがおらんでしょ?だから、僕がなろうかな、と(笑)























