NewInterView川井正幸「自分の食べたいものを、届ける」

「自分の食べたいものを、届ける」

「前へ出る農家」 川井正幸

新鮮な瑞々しい野菜と、古いくたびれた野菜…どちらを食べたいですか。答えはわかりきっている。誰もがそちらを求めている。だけど、それを手に入れるのは難しいのです。川井さんには、ある信念がある。それはシンプルなことだけど、やり遂げるには大変だ。でも、その大変さを、川井さんは微塵も感じさせないのです。


【農業以前】

菊地:川井さんは、農業に取組み始めて、まだ日も浅いと思うんですが、今でどのくらいになります?

 

岡野:昨年の春に篠山に引っ越してきて、有機農業を始めてから1年半になります。

 

菊地:農業をしたい、というお気持ちは、いつ頃からあったんですか?

 

川井:大学で造園の勉強をしていまして。その時は農業について(いずれは、定年後にでもやってみたいな)と、漠然と思ってたんですけれど。学校を卒業してからは、消毒関係の会社に就職したんですね。殺虫を業務とする、ネズミやシロアリを退治するような会社です。

 

菊地:有機農業とはかなり違う出発ですね。

 

川井:ええ、でも勤めているうち、“緑(みどり)”に関係する仕事がどうしてもやりたい、と思って、2年後に園芸店に転職して、約6年間 勤めました。そこでの話なんですが ― お客さんに老人ホームの方がいらっしゃって、ホームの屋上に花壇のようなスペースがあった。「そこで花や野菜を育てたいんだけど…」という相談を受けて、お手伝いをすることになったんです。それに加えて、お客さんからは「老人ばかりなので、身体によい野菜を育てたい。有機でやってほしい」というリクエストがありました。そういうわけで、注文に取り組んだんですが、その時そこで育てたキャベツが、もう!めっちゃくちゃおいしくて。(すごいな…有機でこんなんができるんや!)とか思って…。それからですね、野菜をやりたいなあ、という気持ちを持ち始めたのは。

 

菊地:そりゃスゴイ。いきなり有機キャベツができてしまったんですね。

 

川井:それまでの僕は、仕事で「この虫にはこの薬をやって下さい」とかお客さんに言っていたんですが、そのキャベツがきっかけで(虫には薬…それもおかしな話やな)という違和感を感じ始めるようになりました。それに造園の仕事って、花にホルモン剤や薬なんかを、ガンガン与えるわけなんですよ…それって、植物自体にとっていったい???とか思ったり。

 

菊地:仕事に疑問を感じ始めた、と。

 

川井:それでその後、転職して大手の八百屋に勤めました。野菜のことを少しでも勉強したいなあ、と思って。そこで某百貨店の野菜売り場に配属になったんですけど、納得できないこともあるわけです。二週間前に仕入れた野菜を、表面だけキレイにして、それを当たり前に売ったりとか。そういうのが見えてきてしまって。想像よりヒドかったですねぇ。

 

菊地:実態を目の当たりにしたわけだ。具体的にどんなでした?

 

川井:有名百貨店に入っている大手の八百屋なんですが、野菜が安い時に大量に仕入れて、それを本社の倉庫で保管しておいて、小出しにして売っていく、というやり方ですね。店に届いたときには、キャベツなんか既に真っ黄色になっていることが普通です。そのままでは売り物にならないから、まず皮を剥いて、それから半分にカットして、ラップをかけたりするとキレイに見えるんですね。そうやって店頭に並べると、見た目はきれいから、お客さんは新鮮なものと思って買っていくわけです。(それ古いですよ)とは言えないですからね。そういうことに対する嫌悪というか、自分の中で もどかしさみたいなものがありました。

 

菊地:なるほど。で、それからは?

 

川井:そうやって八百屋に勤めているときに、僕の祖父と祖母が続けて亡くなったんです。それを契機に父と母は、祖父母が住んでいた実家に、帰ることになりました。父は勤めていた会社をやめて、祖父が持っていた畑をやり始めたんですね。とはいえ、父は祖父から農業を教えてもらったわけでもないから、全然思うようにできないわけです。そこで勉強のために、父と僕は三重県にある“赤目自然農塾”というところに通い始めました。畑を耕さない、肥料をやらない、雑草を抜かない、いわゆる自然農業です。

 

菊地:自然農から入ったんですか。それはまたどうしてでしょう?

 

川井:ええ、雑誌か何かで、たまたま自然農の特集をしていたんですね。それに感化されて(一度見てみたい)と思ったのがきっかけで。月に一度の塾通いは、今でも続けています。なので、僕にとっては自然農が農業の入り口、ということですけど、特殊なケースなのかもしれませんね。

 

菊地:なかなか最初からはうまくいかない、というイメージがあるんですけど、どうでした?

 

川井:やはり、なかなか思うようにはいかなくて。「さあはじめよう」でできるものではありませんね。10年くらいは続けてやらないと、自然農に適した土が出来上がらない、ということも関係しているみたいです。この頃くらいから(絶対農業をやりたいな)と、強く思うようになっていました。そんな折に、インターネットを見ていたら、篠山で黒豆のアルバイト募集があって、そこで農業を学ぶことにしました。大阪から毎日2時間かけて通い始めたのが一昨年の秋ごろの話です。

 

菊地:はあ、大阪から篠山までご通勤…それはそれは(笑)。そこは有機農家だったんですか?

 

川井:いえ、そこは特別栽培でした。もともと新規就農者の方で、無農薬無化学肥料から特別栽培に転向された農家さんです。そこで思ったのは(やはり自分はちゃんと有機をやりたいな)と。

 

菊地:そうして、独立なさったわけですね。

 

川井:そうです。春から独立して、有機農業を始めました。有機農家の橋本慎司さんという方と知り合って、「篠山で農業をやりたい」という気持ちを伝えたら、兵有研を通じて“丹南有機農業実践会”とつないで頂きました。そこの会長が小前(こまえ)さんという方で、農地をご紹介下さって。それが5月。トラクターとかの農機具なんかも小前さんに貸して頂き、いろいろお世話になって。

 

菊地:作物はうまくできました?

 

川井:順調に育ちました。自然農からスタートしているんで、有機を始めてみると“ラクに野菜ができる”というか、(うわ!こんなに出来るんや!)とビックリしました。

 

菊地:やっぱり川井さんの場合、特殊なケースですね(笑)

 

川井:それまでがあまりに低いレベルだったのかもしれない(笑)

 

菊地:お父さまのご反応はいかがでした?

 

川井:父も同様に、出来の良さと収量に驚いていましたね。ちなみに父は今でも自然農を続けていますが、まだまだでして、“オクラ1本”とかそんな世界ですね。

 

川井正幸

【根本にあるもの】

菊地:生産は軌道に乗っているようで、おめでとうございます。流通のほうはいかがです?

 

川井:そうですね、もう少し売れてくれれば、と感じています。農業を始めて日が浅いので、売り先がまだ少ないんです。今のメインの売り場所は、嫁さんの店。家内は大阪でアロマセラピーの店舗と、動物のトリミングの店舗を経営しています。アロマの指導をしているんですけど、生徒さんによく買って頂いています。あとは少量を生協と北野マルシェで。つくった分の半分くらいは、余ってしまっています。今後は、販売ルートを増やしたいですね。

 

菊地:川井さん的に、こんな売り方をしたい、という希望はありますか?

 

川井:“対面で販売したい”というのはあります。八百屋に勤めていた頃のこともあって“鮮度の良いものを直接渡したい”という気持ちがあるんです。お客さんと話すのも好きだし、顔の見えるカタチで売っていきたいんです。(あの人はこうやってつくって、売ってるんや)というのをわかって買って頂くのが、理想ですね。

 

菊地:対面販売にあたって、川井さんがしたいこと、ってありますか?モットーというか。

 

川井:僕の根本に“自分が食べたいものを売りたい・お客さんに食べてほしい”とうのが、すごくあるんですね。僕だったら、畑で採れたての・採ってすぐのもの、を食べたいわけです。でしたらお客さんにもそうしてほしい、と。僕は食べることが大好きなんで(笑)。色んな農家さんがおられて、その中には“これは売るもの”“これは自分のところで食べるもの”と分けているところがありますけれど、それはあり得ないと思うんですよ…(なんで分けるねん!?)と思いますね。僕がいつも売っている野菜は、その日の朝・遅くとも前の日の夜に採ったものです。新鮮な・自分が食べたいもんを売りたいんです。もう、それが僕の中に根本として“絶対的に”ありますね。そういう感覚の人は少ないかもしれませんが、僕としてはそこに徹底してこだわっていきたいですね。採れてすぐに食べるのと、一日空いたのと、それはもう、“絶対に違う”と思うんですよ。

 

【川井流栽培法】

菊地:川井さんの新鮮な野菜は、どうやって育てているのか、特長なんかあります?

 

川井:育てるにあたって、極力自然に任せるようにしています。例えば水は最初の植え付けの時だけ与えて、あとは殆どやることはないですね。自然農法の影響もあって。(僕は野菜をつくってるんじゃない、ただ管理してるんや)という感覚でやってます。“つくる”のは野菜自身であり、太陽なんかを含めた自然であって。その分け前を僕は頂いてるだけや、と。ですから僕自身“生産者”という言葉がしっくりこないところがあります。つくっていて難しいのは、例えば、しし唐が辛くなり過ぎたり。これなんかには、水が足りていないことが影響している、と思うんですが。他にも“この肥料をこれくらいやる”とかのさじ加減で、野菜の味が変わってきますので、そのあたりのコントロールがまだハッキリ掴めていないですね。

 

川井農園風景

【川井農園の今後】

菊地:農園としても、出来立てで新鮮な川井農園ですけど、これからはどんなふうになっていくでしょう?

 

川井:今後の目標として、循環できる仕組み ― 鶏を飼って肥料をつくって野菜に与えて、というサイクル、循環型の農業を整えていきたい。それから、販売ルートをしっかりつくって、農地をもう少し、そうですね、三反くらいなら自分で管理できるので、そのくらいに増やしていきたいですね。

 

菊地:新鮮な野菜を求めるお客さん、きっと増えていくと思いますよ。

 

川井:地元には丹南有機実践会というのがありますが、お付き合いがあるのは小前さんだけなんです。小前さんのアドバイスで「あんたは個人で自由に好きなようにやり」というのがあって。会に属してしまうと、野菜の出荷は会単位でやらなくはいけなくなるなど、僕がやりたいこと ― 川井個人がひとりひとりのお客さんを相手にする、ということができにくくなる。小前さんには、本当によくして頂いています。

 

川井正幸

3つの質問 ?・?・?・?

「もし農業をしていなかったら?」

やっぱり、ミドリに関する仕事ですね。園芸とか植木関係の、そんな店をやっているとか。

 

「休日の過ごし方」

ごく普通ですね。農業をやっているから、という過ごし方ではないかも。…でも、出かけた時に“道の駅”があれば必ず立ち寄って、特産物のチェックなんかはしますね。「道の駅巡り」とでもしておいて下さい(笑)

 

「10年後の自分はどうなっていますか」

農地をもっと借りて、農園を発展させたいですね。ひそかに、この一帯を川井農園にしたいな、と思ってるんです。

 

 

 

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