


「ベタなものたくさん」古跡真一・清美夫妻
古跡家は大変にぎやか。なんせお子さんが4人いらしゃいます。インタビュー中も、古跡さんの膝の上・背中・果ては頭の上まで、お子さん方が絶えずまとわりつき、古跡さんは人間ジャングルジムと化している。その情景を見ていると思わず吹き出してしまう。元来子供好きのご夫妻は、ご縁に恵まれての子沢山。農業をやっていることも、そのことと大いに関係があり、まさに全身子供好きなおふたりです。
【農業以前】
菊地:古跡さんは、ご実家が農業をなさっていたとのことですけれど、古跡さんご自身は新規就農に近いですね。珍しいケースだと思うんですが、農業を始めるまでのいきさつについて、教えて頂けますか?
真一:はい、大学を卒業してからは、アルバイトなどを転々としてました。なかなか自分の道がみつからんから、嫌になってねえ、現実逃避みたいなかんじで北海道のシャケバイ(注:鮭のシーズンを対象にした出稼形態のアルバイト)に行ったりね。そこで家内と知り合いまして。それから、(一生の仕事を見つけなあかんな)と考えながら、家内と共にバイトを転々としていました。…そのうち段々に(農業したいな)思うようになってきて。もともと、環境問題に対する意識、みたいなものもあったんですけど。NGOの“地球村”という団体があって、その活動に顔を出したりしているうちにね、そういうことに一層興味を持ち出して(有機農業をやりたい)と。
菊地:実家が農業をやっている、という意識はそれほどないのに、いつの間にか農業にたどり着いた、ってかんじですね。
真一:ええ、幸い田舎の祖父が農業をやっていた、というかんじで。僕としては、ただもう(やりたい!)と思ったからね、決めてからは迷うことなく、すんなりスタートしました。10ヶ月間ほどかけて、ちょこっと資金つくって。
菊地:農業を継ぐ、ということで、お祖父様もお喜びだったでしょう?
真一:でも僕は有機をやりたかったからね、祖父は慣行でしょ、喜んでくれるということもなかった(笑)。始めてからも、こっちは野菜もなかなかできんから、「もうやめてまえ」言われたり(笑)。でも人前では「孫が継いでくれて嬉しい」言い出したり。「どっちやねん」いう感じです(笑)。
菊地:有機農業を始めるために、まずどうされました?
真一:最初に、春日町で研修を3ヶ月ほど受けて。とはいえ、草引きやっとったくらいやけどね。僕らは農業というものを、ほんまに何も知らない状態でしょう。図書館行ったり、本なんか見て調べるわけです。そしたら、自然農法とか有機農法とか、読んでたらおもしろいわけでね、草は引かない・肥料は入れへん、それでおいしい良い野菜ができる、いうことで。…でもやってみても、ぜんぜんできませんわ、ハッキリ言って。当初はそんな有り様なんで、これは具合悪いな、いうことで、農業改良普及センターなんかに行ったりしながら、指導を受けたり。いろんな農家を見て回ったり、独学で勉強したりね。
清美:農業を始めた頃は、“農家の仕事の流れ”というのが掴めていないじゃないですか。一年間の中で、例えば“秋が来たらこういう作業が必要だ”とか、“そろそろこれに取り掛からないと間に合わない”とか、私たちは農業の感覚が自然に身についていないので、いちいち頭で考えないといけないでしょう?もし農家の出身だったら、農業について、大まかにでも感覚として持ってらっしゃるじゃないですか。例えば、トラクターでうねをつくることひとつとっても(つくったけど、果たしてこれでいいのかどうか)わからないんですよね、私たちとすれば。研修なんかに行っても、出来上がった土壌に「じゃあ、これ植えて」と言われてするわけで、それ以外のことは、すぐに身に付かないですね。ですから当初は“畑を借りて家庭菜園の大型版を始めた”そんな感じでしたよね。ほんとに手探りでした。見学に行って、他の農家さんに教えてもらって、どうにかカタチにしていこう、と。そうこうしていても、季節は過ぎていくので、待ってくれないし、考えながらも手は動かさなきゃ、ってことでパニックだったよね。だから、つくる品目を減らして、集中しやすいようにしてから、ようやく最近カタチになってきたね。でも、またこれから増やさなきゃね。
菊地:なるほど。作業のひとつひとつに、「これでOK」という確信が持てないんですね。ざっくりとでも基礎中の基礎を、まずは掴まないといけない。
真一:最初は“多品種多品目”の理想で始めたんですが、そんなこともあって、品種を絞り込む方針にしました。夏はピーマン・冬はにんじん、というかんじでね。まず、それだけはきっちりできるようになろう、と決めて。ようやく去年くらいから、種類を少しづつ増やしていけるようになりました。
【理想のスタイル】
菊地:周辺の農家さんとお付き合い、なんてあります?
清美:周りに有機をやっている農家さんがいなので、交流はほとんどないですね。ただ、有機農家には個別のお客さんに宅配したりとか、そういうスタイルでやっておられる方が多いけれど、うちとは考え方が違うところがあるのかも。私たちの考え方として、「野菜をたくさんつくって、安く売って、多くの人たちに食べてもらいたい」というのがあるんですね。有機農家さんの中には「いいものをつくりたい」という想いから「いいものだからわかる人に食べてもらいたい」という方もおられるみたいですね。有機農業だと、たくさんの収量はなかなか難しいと思うんで、そうすると、いい値段でとってくれるお客さんに売る、ということをしないと生計が成り立たない、ということが実際あると思うんですが。うちなんかは、夫婦共々子供が好きで、うちにも4人いるんですけど、子供たちに良い野菜を食べてほしいんですね。でも子育て世代って、裕福なわけでもないし。(国産で有機がいい)って本当は思っていても、仕方なく”外国から入ってくる安い野菜”に走ってしまいがちじゃないですか。…だから、自分たちの野菜で間口を広げたいな、って。
真一:つくっとるもんが野菜とか米やからね、お金持ちの人のための健康食品やないから。普通の人が毎日食べるもんやからね、それなりの値段で提供できるように、なりたい。出来る限り、普通に並んでいる野菜と変わらない値段で、提供したいと心がけています。そのためには、有機であっても、収量をあげなあかん、と。僕の思い描くことは“有機の野菜がスーパーで誰もが普通に買える状態”そうなってほしい。希少価値とか付加価値があって高く売る、ということは経営として、必要なことなんかもしれんけど、やっぱり、誰でも買える普通の流通にのるように、収量をあげて売り先を増やしていきたい。
菊地:なるほど。ちなみに、今つくっておられる野菜は、どんなものですか?
清美:うちは、ベタでいつもあるような定番のものを、つくってるよね…ピーマン、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、みたいなものが好きなんですよ。珍しい野菜とか嗜好品とかじゃなくて、地味なものが多いですね。
真一:毎日食べる、いつも必要なものをつくりたい、いうのがあるんです。“基本のもの”で。
清美:抜群のものを厳選してつくるんじゃなくて、みんなに「おいしい」と言ってもらえるものを、たくさんつくりたい、って感じで。大衆野菜を大衆価格で。新規就農で「こだわり野菜をつくるぞ」みたいな方が、おられるでしょう?カッコいいじゃないですか。…うちはベタなんです(笑)。けど、いちばん食べてもらえる、というところが好きなんですけど。
【おいしい野菜を】
菊地:ぜひ、これからも収量にこだわった有機農業、続けて下さい。
清美:うちのものは“有機”と謳っていて、認証もとってるので、覚悟を決めて野菜をつくらなくちゃいけないですね。露店なんかで直売やっている農家さんなんかでいうと、無農薬とか安全野菜とは言いながら「今回はどうしても一回だけ、クスリ降ってん」というのが許されるけれど、うちはそうはいかないから。その違いっていうのは大きいですね…その“一回”、というのが。でも買う方からすれば、そういうことはあんまり知っていらっしゃらないし。でも、一回そこら、クスリ降ることとまったく降らないこととが、安全や品質的にいったいどれだけ違うものなのか、誰にもわからないですし。でも、うちは有機でやってるわけで。そのあたりのことを知ってくれていたら、嬉しいな、というのはありますね。でも何をおいても“味”や“おいしさ”とは思ってます。ものの良さで勝負したい、というのはあるんですけど。
真一:うちらは、有機で農薬も化学肥料も使わへん、いうことで、それは自分らがそうしたいからやっている、いうだけで。食べる人にとってはそんなん、気にする人はするし、せえへん人はせえへん、まったく関係ないわけやし。でも、うちでつくってるのは野菜であり米であり食べ物やねんから、やっぱり「おいしい」といわれるものをつくりたいな、と。
清美:目標としては、認証のシールを貼ってあろうがなかろうが、「こっちのほうがおいしそうだから」「こっちのほうがおいしいから」って、うちの野菜を選んでもらうことですね。
真一:目標というか、そうならんことにはあかんやろな、と。「これ一生懸命つくったんです、手間がかかってるんです」と言うたところで、おいしないことにはね。なんぼ手がかかっていようが、食べ物としてあかんもんはあかんしね。モノとしてちゃんとしたものやないと。そこにはきっちりこだわって、やっていきたいですね。
菊地:古跡さんの野菜、お客さん「おいしい」って言ってくれるでしょう?
真一:農業やってて、何よりも嬉しいですね。僕は自分のつくったもんを毎日食べてるから、他と比べることもない。自分で(おいしい)と感じていても、やっぱりお客さんの言葉は、励みにも自信になりますね。タダであげた人はみんなおいしいと言ってくれるけれど(笑)、お金だして買ってくれて「おいしい」と言ってまた買ってくれる、そういうのはいちばん嬉しいですね。
清美:私は、スーパーで買った野菜を食べてもおいしくない(笑)。毎日の食事を作る側としては、たまにどうしても品数が足りなくて、スーパーを利用しなくちゃいけない場合があるんですね。でも買うことを躊躇してしまう。(こんな弱った野菜を買わなくちゃいけないのか)うちだったら畑に行って引いて、そのまま食べられるわけですから。何日も経っている野菜とは、比べられないですから。例えば大根なら採れたてを切ったら、上手に切れないんですよ。瑞々し過ぎて、パンパンになってるから、途中まで刃を入れるとパッキッと裂けちゃうんです。料理するときはウキウキしますね、いつも。
【野菜の行方】
菊地:流通はどうなさっています?
真一:売り先は、SATYさんの野菜売り場に地場産コーナーがあって、その中にうちのコーナーがあるんです。出荷量はそこがいちばん多いね。SATYさんとは直接やり取りしています。うちが認証とってるいうこともあって、先方のバイヤーさんも有機を探していて、話がまとまりました。
菊地:それはよかったですね。一般の、子持ちの主婦がたくさん来る場所…古跡さんの希望にぴったりです。
真一:あとは、関西四つ葉連絡会さん、それから、農協通しての市場出荷も少しやっています、地元の“ピーマン部会”いうところからね。うちの野菜も、“有機ではない”扱いで、市場に普通に出してます。最近はピーマン部会も人が減って、このままやったらつぶれるんちゃうか、と。人数は少ないし、生産量も少ないし。僕としては、そういうのは残っていってほしい。無くなるのはさびしいことやし、やっぱりね、その人たちが今までやってきてくれたことで、今までみんな、普通に野菜を食べてこられたわけやしね。
菊地:古跡さんのつくったものを、認証なしで一般流通させているんですか?何か、もったいない話ですが…。
清美:有機がいいとはいっても、今現在みんなが食べていけるのは、慣行農業で安定して供給してくれてるところがあるから。その人たちのおかげじゃないですか。農協さんなんか、つくったものをここまでわざわざ取りにきてくれるんです。で、量はいくらでも際限なく引き取ってくれて、有難いことですよね。
真一:それから、加東市の給食センターにちょこちょこ出さしてもらっています。これについては、うちでぜひ取り組みたい、という想いがあって。僕らは子どもに食べてほしい、いう気持ちが強いから。
清美:嬉しかったのが、それまでピーマンを食べないで、残す子が多かったらしいんですけど、うちのものに変わってからは「おいしい」と言ってみんな残さず食べてくれる、という話を聞いて。それはほんとに嬉しかったですね。
菊地:やりましたね。冥利に尽きる話だな。
【メッセージは“なし”】
菊地:お客さんとか消費者の方に、何か伝えたいことってありますか?メッセージとか…。
真一:メッセージ?別にないです。これはカッコつけ、というわけでもなくって、ほんまにないんです。食べて、結果おいしい、と感じてくれるだけで。例えば、テレビ見てて(うーん、この液晶、開発するのに大変な苦労があったんだなあ)なんて思わんでしょ。作り手の事情とかこっちの苦労とか、食べる人は関係ないしね。大げさに言いたくない。
清美:いろいろな解説とか薀蓄とか、そんなのは無しで、食べておいしくて、うちの野菜を気に入ってくれたら…それが本望だよね。それってカッコつけてるよね(笑)。宣伝も大事かもしれないけど、うちの主人そんなの好きじゃないんですよ。猪年だからか「これをすると決めた。やる。以上」「なんで?」「やるから!」っていうタイプなので。ほんと、そう思うわ。
3つの質問 ?・?・?・?
「もし農業をしていなかったら?」
清美:あ、そういう質問、この人ムリだと思います。想像力とかないので、答えられないんです。
真一:…。
「休日の過ごし方」
真一:あんまり休みとかないんやけどね。仕事のことで資材を買いに行ったり、本読んで調べものしたり。冬やったらまだ時間が持てるので、子供の世話とか…そんなんです。
「10年後の自分はどうなっていますか」
真一:まだ農業始めて駆け出しの状態やからね。若いということもあって。自分の仕事にまだ納得できんところもある。今は“単に農業をやってる”という意識やから、今後は“農業は自分の生業なんや”というくらいになって、いっぱしの有機農家にならんといかんね。























